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鎌倉時代の奈良仏師(8)善春 叡尊坐像

鎌倉国宝館長・半蔵門ミュージアム館長 山本勉

Source: Nikkei Online, 2023年8月7日 2:00

西大寺愛染堂に安置される興正菩薩(ぼさつ)叡尊の肖像。像内の銘記から、弘安3年(1280年)に仏師善春(ぜんしゅん)が春聖(しゅんせい)・善実(ぜんじつ)・尭善(ぎょうぜん)とともに造った叡尊80歳の寿像とわかる。

作者善春は父善円(善慶)のあとを受けて叡尊関係の造像に従事し、この像のほかに文永5年(1268年)の奈良・元興寺聖徳太子像、建治2年(1276年)の西大寺大黒天像を残した。善春にしたがった春聖・善実・尭善は、その名からすれば、彼らは善春と密接な関係がある、たとえば子息たちではないだろうか。祖善円以来の大恩ある叡尊の記念碑的な造像に、一族が特別の力をそそいださまを想像できる。

弘安3年はすでに仏像彫刻の表現におとろえがめだつ時期であるが、この像の迫真の面貌、量感に富む体軀(たいく)、流動感あふれる衣文(えもん)線など、すばらしいできばえはそれを感じさせない。7年前の国宝指定時の文化庁の指定説明では、この像の造形に、奈良の地に残る、奈良時代以来の古代肖像彫刻の伝統が踏まえられていることが指摘されたが、むべなるかなと思う。この像こそ鎌倉時代の奈良仏師の造像の象徴というべきだろう。
(1280年、木造、彩色、玉眼、像高91センチ、西大寺蔵)